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photo:川野結李歌

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福原希己江

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濱野奈美子


静かに深くわたしたちに響く、あなたの孤独のこころ。

A PEOPLE CINEMA企画・主催の下、東京・表参道にて、シンガーソングライター福原希己江のライブが11月6日に行われることになった。

福原希己江の音楽。

印象的なのはやはり、ドラマ「深夜食堂」のBGMとして流れていた数々の楽曲だろう。

「唐揚げ」「あさりの酒蒸し」「クリームシチュー」など、その回のサブタイトルに合わせて作られた楽曲とその透明感のある歌声は少しほろ苦い作風にとてもマッチしており、作品全体を優しく包み込むようだった。優しさはあるが、ベタベタした感じはない。

生まれたのは東京都大田区羽田。日本最大の空港があり、少し前までは町工場が立ち並ぶ「ものづくりの町」だった。そんな故郷のことを彼女は「はねだ」という曲で歌っている。「機械の音は懐かしい子守唄 川の香りはヘドロのにおいがした」そんな中で「空ばっかり眺めていた」少女時代を振り返る曲だ。

「故郷のことは全部受け入れてるんだと思います。やっぱり複雑な部分はあったと思うんですけど、ヘドロとかいやなんですよ、臭いなと思うんですけどね。でもしょうがないなと(笑)。東京と言いながらオシャレでもなんでもないし、浅草みたいな感じでもなく、意外とみんな淡々としてるんです、あそこの町の人たちって。羽田のもっと奥の方に行けば結構熱い人がいるらしいんですけど、あまりそれを感じずに生きてきちゃったので」

子どもの頃はあまり人と話さなかったという。

「他の人とちょっと会話が噛み合わなかったりとかすることがあって。大人になってからだいぶましになってきたんですけど、子供の頃はうまくできなくて結構孤独でしたね。妄想にふけるのが本当に好きで、自分の頭の中でいろんな物語を作ったり……別に書いたりはしていないんですけど。本は読んでなくて、国語の成績もずっと悪かったです、作者の意図が読めなくて。でも、自分の中で何か作るのは本当に好きで、その想像の中で生きてるみたいな子どもでした。熱い気持ちはあるし、思いやりだったりそういうことも思うんですけど、ベタベタするのって今もあんまり好きじゃなくて、たぶんそれが音楽にも出てるのかなと思います」

例えば「深夜食堂」の挿入歌である「唐揚げ」は、一見、唐揚げの作り方を歌っているような、それに託けて「君」への愛情を歌っているような歌なのだが、そこはかとなく漂う不穏な空気がある。彼女が設定した物語は想像以上に不吉だった。

「ヤクザが相手をボコボコにする感じがなんか唐揚げの作り方に似てるなと思って。唐揚げを作りながら女の子がそういうことを想像して「イヒヒ…」って思っているみたいな物語です。劇中では「殺してやる」みたいなセリフはないですけど、『唐揚げとハイボール』という話は女の子がヒモみたいな男の人にお金せびられてる話でヤクザも出てくるし。唐揚げの片栗粉は白くてドロドロしていて、コンクリートに似てるなって、それで固めてドボンみたいな(笑)」

そういう物語も歌になって彼女が歌うと陰惨さが消える。それどころかその歌声に癒される気さえしてしまう。自らの楽曲の印象を「意外と涼やかというか、乾いてる感じがありますよね」と評したが、まさにその乾いている感じがいい塩梅に聴き手の耳に届くのだろう。

人生のターニングポイントは「音楽を始めたこと」だという。音楽を始める前は役者をやっていた。ダンスをやったことも、映画に出演したこともある。子どもの頃から映画や舞台が好きだったから、人前で表現することのできる世界に身を置けたことは良かったのだが、なぜか「こっちじゃない」と思ってしまったという。

「22歳の時かな? 気づいた時は結構愕然としちゃって、どうしようって。で、そのタイミングで自分がオリジナル曲を作れるということに気付いたんです。メロディーも歌詞も。でも演奏してくれる人もいないし、自分も何もその時は全然演奏できなかったので。そうしたらギターを弾いてもらえる人が突然現れてライブやりましょうと。あぁ、いいですねって感じでライブを始めました(笑)」

そんな奇跡的な始まりから10年以上が過ぎた今、ライブはリュートの弾き語りで行うことが多い。リュートは琵琶にも似た古楽器で、比較的音量が小さく繊細な音色が特徴だ。

「弾き語りに関してはボサノバやクラシックギターから入ったんです。一時期(フランシスコ・)ターレガにはまった時期があったり、ボサノバもジョアン・ジルベルトみたいな結構静かな、ずっと一人で弾きながら歌うみたいな人がすごく好きです。でも、もともとはクラブミュージックから入ったんです。ドラムンベースっていう、すごくビートが早いジャンルがあるんですけど、その早いビートの中にすごい静けさがあるんです。その静寂さみたいなものに惹かれたり。そういうものを20代に聞いていてから、30歳ちょい前にボサノバに入って、メロディー的には静かだったり綺麗と思えるような音楽を作れるようになったのかなとは思います」

日本はもちろん、中国や韓国などアジア各国にファンは多く、海外での公演も行っている。特に印象深かったのは台湾での公演だという。

「まず台北の誠品書店 (蔦屋書店のモデルになったといわれている)のインストアライブがあってそれから台北のホール、それから台南に移動したんですけど、特に台南がホールも音響もめちゃくちゃよかったです。台南で有名なくまおかし(熊菓子煎餅)を作っているお菓子屋さんがあるんですけど、すごく美味しくて大好きで、その歌も作ったんです。その時に観に来てくれたファンの方が日本の友達経由でくまおかしを送ってきてくれたりしました。「深夜食堂」を特に若い人が見ていたってことかもしれないですが、20代が多かったです。日本だと50代とかが多いんですけど(笑)」

今回、アジア映画とコラボレーションしたライブを行うことになった。A PEOPLE CINEMA配給の台湾映画「台北暮色」、台湾・香港映画「あなたを、想う。」、韓国映画「十八歳」(2022年公開)に関する3曲を披露する予定だ。

「台北暮色」は色合いが美しいことに惹かれているという。

「映像がとても綺麗で瑞々しい。この映画は本当に色合いが綺麗だなと思います。監督さんがそういうことをすごく気にされて撮ってるんだろうな。女の子が本当におしゃれないいとこに住んでいますよね。素敵ななんか自然がすごくいいか共存している感じがいいです。あと、鳥が可愛い(笑)」

「あなたを、想う。」は幻想的なシーンが気に入っている。

「タイムスリップするというかそういうシーンがありますよね。現実じゃない何かみたいな、結構そういう世界の話が好きなんです。よく私たちが生きてる世界ってひとつの世界じゃないって言いますよね。別次元の世界が同時に存在しているって。そういうことも含まれているのかなって。話はちょっとわかりにくいかなと思うところはあるんですが、最後まで観て、自分の中で思いが動いた感がありました。私もやっぱり人を思う気持ちは大事です。でも、すれ違ったりする、そのすれ違いも大事だったりするのかなとか、結構いろいろ複雑に考えましたね」

高校生同士の恋愛のすれ違いを描いた「十八歳」は監督の熱い思いが伝わったという。

「監督の最初の作品ですよね。すごく思いいれがあるんだろうな。自分がすごく好きだった人なのか、どういう形なのかはわからないんですけど、そういうものをすごく瑞々しい、青い果物みたいな感じで切り取ったんでしょうね。まだ未完成なのかなというところも確かにあるんですけど、すごく熱いものが伝わってきて、そういう意味ですごくガーンときます」

この作品を観たイメージで「十八歳の恋」という曲を書き下ろし、ライブで披露する予定だ。

「漂う感じでどこに到着できるのかなみたいな風にしたかったんです。ちょっとそういうふわふわしてるように見えたんですよね。いい思い出なんだけど苦しいなみたいな、ちょっとした悲しみだったりを入れたくて。普段曲を作る時はものによって違うんですけど、作品がある場合は自分なりに読解して、こういう風にしたらいいかなっていうものを決めます。その時に思い浮かんでくるメロディと歌詞が必ずあるんですよ。パンと出てきます。それをもうちょっと作品の雰囲気に寄らせるにはどうしたらいいかとか、またそのクライアントさんとのやりとりで、こういう風にしていこうとかありますけど、最初はパンと。結構そのインスピレーションを大事にしちゃいますね。それでもまったくこれ違うんだけどって言われた時もあるですけど、そういう時はもうあ分かりましたすぐ変えちゃうんですけどね(笑)」

11月6日土曜、タイトルは「福原希己江11.6LIVE 機械の音はなつかしい子守歌」。


福原希己江
1979年 東京・羽田生まれ。幼少期から歌うのが好きで人知れず歌う日々を過ごす。2004年からライブ活動開始、2009年から弾き語りを開始する。特にボサノヴァやシャンソンに興味を持ち、主に喫茶店やカフェで歌う日々を過ごす。2010年に友人に誘ってもらったパーティーで松岡錠司監督と出会い、2011年から『深夜食堂』のドラマ、映画に参加。数々の挿入歌を手掛ける。2016年 リュートに出会い、その独特の世界観に惹き込まれる。2017年からリュートでの弾き語りを始める。2021年山下智久の出演する『HADA NATURE』ティザームービーの楽曲制作を担当する。


A PEOPLE CINEMAより

「東京・羽田で生まれたシンガーソングライター、福原希己江。
ファーストアルバムに収録された「はねだ」の中に「機械の音はなつかしい子守歌」という一節がありました。タイトルはそこから採りました。
その曲は…こんな印象です。

静謐なサウンドから浮かび上がる、美しい声。
「はねだ」という「旅の街」に青く沈む、記憶の詩。
静かに深くわたしたちに響く、あなたの孤独のこころ。

そして、デビュー10年の2021年。
「A PEOPLE CINEMA」は「福原希己江」に出逢い、新しい旅を始めたいと思います」


福原希己江11.6LIVE
機械の音はなつかしい子守歌

日程:2021年11月6日(土) 13:00開場 13:30開演
チケット:チケットぴあ
会場:ライブスペースアロ
   〒150-0001 東京都渋谷区神宮前5-44-2 LAPIN ET HALOT
料金:自由席(着席/先着順)3,500円 チケットぴあにて9月10日(金) 10:00〜販売
※当日は12:30より会場入口にて先着順で列に並んでいただき、入場していただきます。
出演:福原希己江
ゲストアーティスト:TAMA

プロフィール
1991年 ニュージーランド、オークランド州生まれ。ニュージーランド、ネパール、日本 育ちのギタリスト/シンガーソングライター。フラメンコ ギタリスト「パコ・デルシア」に影響され13才でギターを持つ。ボーダーレスな精神で、ジャンルに囚われず響かせるギターと歌声は優しく時には情熱的、そして懐かしさも感じさせる楽曲は観たもの、聴いたものを虜にする。現在は 「Tama Tsuboi」ソロ活動の他、3人編成 アコースティックパワートリオ 「SHAMANZ」のメンバーとして活動中。

内容:20曲予定
主催:A PEOPLE CINEMA

アジア映画とのコラボレーション
A PEOPLE CINEMA配給3作品の音楽を歌唱・演奏します。

❶台湾映画「台北暮色」挿入曲「土曜の夜」
❷台湾・韓国映画「あなたを、想う。」エンディング曲「念念」
❸韓国映画「十八歳」日本版限定エンディング曲 「18歳の恋」 作詞・作曲 福原希己江
※「十八歳」:「ひと夏のファンタジア」で知られるチャン・ゴンジェ監督の第1作(2009年)。世界の映画祭で上映され、高く評価された。2022年日本公開予定。

アジアカルチャーサイト A PEOPLE(エーピープル)


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