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小林淳一
いつも心のどこかに相米さんがいる、
怖い人から愛する人に変わりました
相米慎二監督の「お引越し」4Kリマスターが12月27日より公開された。初日の舞台挨拶に登壇したのは、主演の田畑智子だった。
「(1993年公開から)30年の時を超えて、私のデビュー作を観ていただけることに感激しています。私の中ではとても大きな出来事であり、私の人生を変えた映画だったので、30年たった今、わたしがこのお仕事をさせていただいていることに感謝し、いま、いろんな気持ちでいっぱいです。相米さんって偉大な人なんだなと改めて実感しましたし、この映画に出逢えてよかったと思っています」
当時の相米監督についての印象を次のように語った。
「当時は小学校6年生で11歳のわたしなので、許していただきたいんですけど、(相米監督が)本当に怖くて、あまり近寄らなかったです。監督から何かを言われたり、監督が近寄ってくるとき以外は逃げていたはずです。何回もやるし、何回やってもOKが出ない。どうしたらいいか、いつも泣いていました。でも、撮影が終わってから、わたしの居場所があったんだと感じましたし、わたしにもこういうことができたんだと嬉しくなりました。わたしの小学校6年生の夏休みは、この作品にすべてささげていました」
「それからお仕事をするようになり、いろんな方に『相米さんとお仕事できたことが、どんなにすごいことか』『財産だよ』と言われました。そういう感謝を感じるようになりましたし、もう逢えないことが悲しいですが、いま逢ったらなんて言ってくれるかなと思いながらいつも仕事をしています。いつも心のどこかに相米さんがいるという。私の中で怖い人から愛する人に変わりました」
「お引越し」4Kデジタルリマスターはヴェネチア映画祭で最優秀復元映画賞を受賞。イタリア、フランス、香港など世界各国で公開されている。
「昨年の7月にニューヨークに行かせていただいて、ニューヨークの映画館で『お引越し』を観ました。この映画、こんなに笑うところあったっけってていうくらい、みなさん笑ってくれていて、わたしも一緒に、すごく新鮮な気持ちで観ました。ほぼほぼずっと泣いていたんですけど。改めて映画を観て、映像が綺麗で、音が綺麗で、いろんな発見があって、また何年かしたら観たいなと思いました。ニューヨークのみなさんに映画が暖かく迎えてもらえていて、とても嬉しかったです。(ヴェネチア映画祭で受賞した)昨年くらいから相米監督から『もっとがんばれ』といわれているようで、これからも一生懸命頑張りたいなと思っています」
「お引越し」
監督:相米慎二
原作:ひこ・田中
脚本:奥寺佐渡子/小此木聡
出演:中井貴一/桜田淳子/田畑智子
1993年/124分/日本
配給:ビターズ・エンド
©1993/2023讀賣テレビ放送株式会社
Bunkamuraル・シネマ渋谷宮下、新宿武蔵野館ほか公開中