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CULTURE / MOVIE
「第19回東京フィルメックス」速攻レビュー
「幻土(げんど)」。
悪夢なのかどうかの境い目を見失っていく

「第19回東京フィルメックス」が開催中だ。A PEOPLE(エーピープル)では、連日、上映作品をレビュー。今回は、コンペティション作品「幻土(げんど)」(シンガポール、フランス、オランダ)。

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シンガポールは、埋め立てによって国土を増やしてきた国で、なんと現在、約25パーセントほどは他国の土で出来ているという。タイトルの意味するところも、そのような「不確かさ」にあるのだろう。

背景にはそのような、自国に向けてのメッセージがあるのかもしれないが、作品それ自体はあくまでも、フィルムノワールのように進行する。いや、もっと下品に、謎解きサスペンスと呼んだほうがいいかもしれない。ジャンル映画としての身なりは、社会派映画としての本質をカムフラージュしているわけではなく、むしろB級テイストから独自の輝きを見出している。

シンガポールの刑事が、失踪した中国人移民労働者の足どりを追う。彼にはバングラデシュ人労働者の友達がいて、夜な夜な入り浸るインターネットカフェにはドライブデートもするキュートな女性もいた。埋立地の建築現場の劣悪な労働環境と対比される、ナイトライフの明滅。工場地帯の夜景は、すべての「不確かさ」を忘れさせるように美しくそこにある。

映画は夢である。かつて撮影所は「夢の工場」と呼ばれた。だが、夢には悪夢も含まれる。本作は、その夢が悪夢なのかどうかの境い目を見失っていく様を凝視する。

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夢は、主観的なものである。だが、個人の夢に、第三者がうっかり立ち入ってしまうこともある。そして、それは必ずしも悲劇とは限らない。そうした、まばゆい移ろいがここには刻印されている。

脱色された昼間の光景が陰鬱であればあるほど、ネオンのごとくまたたく海の姿はより一層、わたしたちの深層をディープに愛撫する。その、危ういしあわせ。夢を、現実ではないからと一刀両断してしまう者は、もはや映画を見つめる資格などないのではないか。

映画は夢である。もう一度、そう呟かずにはいられないのは、失踪という主題が、ダンスすることと重ね合わされる瞬間がリフレインされるからである。

ここではないどこかに魂が消失すること。それは、心身の境い目を見失いながら、人生そのものが踊ることに他ならない。ダンス、ダンス、ダンス。悪夢の呪文はときに、ひどく魅惑的である。

Written by:相田冬二


「幻土(げんど)」(シンガポール、フランス、オランダ)
A Land Imagined
監督:ヨー・シュウホァ

第19回東京フィルメックス


A PEOPLE 第19回東京フィルメックス 速攻レビュー

<特別招待作品>
「川沿いのホテル」
「あなたの顔」
「草の葉」
「アッシュ・イズ・ピュアレスト・ホワイト(原題)」

<コンペティション>
「夜明け」
「象は静かに座っている」
「幻土(げんど)」
「幸福城市」
「轢き殺された羊」
「マンタレイ」
「シベル」
「自由行」
「ロングデイズ・ジャーニー、イントゥ・ナイト(仮題)」
「アイカ(原題)」


昨年の東京フィルメックスで上映
「台北暮色」11月24日よりロードショー