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CULTURE / MOVIE
ソル・ギョング、パク・ヘイルの共演で
「22年目の記憶」が至る演技の境地

日本の観客にとって、パク・ヘイルの最も古い記憶は恐らく「殺人の追憶」における猟奇殺人事件の容疑者役だろう。鼻筋が通ったキラキラ美男子というよりは、親近感のある柔和な好青年。漢江の怪物に火炎瓶を投げつけたり、弓の達人や一国の主を演じたりすることもあるけれど、あくまで庶民の日常の延長にある人となり、雰囲気が身上。無茶を言えば、限りなく普通に近い人。同情させやすい人。最初から変わっていない。変わらないことで、俳優としてのコクを深められた人。

彼が37歳のときに韓国で発表された映画「22年目の記憶」でも、そんな彼の持ち味が十二分に生かされている。

演じるのは、かつて演劇俳優だった男の息子。売れない俳優だった父親は1972年、政府の差し金で金日成のボディダブルに仕立てられる。その結果、精神破壊を被り、22年を経ても金日成の気分のまま時間が止まってしまうが、借金苦にあえぐ息子は父親から実家の権利を得るべく、共同生活を始めていく。

マルチ商法を操る詐欺師で、好意を寄せる女性にも冷淡。パク・ヘイル演じる息子は、要するにダメ人間なのである。しかし、パク・ヘイルの持ち味が悪い人間にとどまらせない。やがて父親にも女性にも心を開いていく彼の改心を「案の定」と軽くあしらうか、「こうでなくては」と膝をたたくかは観客次第。

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悪い人間を演じられないというより、悪い人になってほしくないという思いが観客だけでなく、作り手にもあるのではないか。そんな見方も可能にしてしまうところにパク・ヘイルの凄みがあるといえるかもしれない。

映画のクライマックスは、ソル・ギョング演じる父親が金日成になりきって現職の韓国大統領(時代的には金泳三?)と真向かう「模擬南北首脳会談」場面。ソル・ギョングの演技はさすがで、数々の映画賞で絶賛されたのも、なるほど。しかし、その熱演を観客が見るのは息子の目線からなのだ。パク・ヘイルの存在あってこその金日成の代役なのだ。製作陣がパク・ヘイルを息子役に招いた理由もここにある。パク・ヘイルがいて初めて映画は単なる政治陰謀劇から脱却し、情の深い父子物語に昇華できたとしていい。

それにしても、現在41歳のパク・ヘイルの、なんと老いを知らない在り方か。「殺人の追憶」から15年。22年の歳月を経て父の心を知る物語も麗しいが、今も若き日の記憶を少しも崩さない永遠の青年俳優の存在こそ、感動的なまでのサスペンスであろう。

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Written by:賀来タクト


「22年目の記憶」
監督:イ・へジュン
出演:ソル・ギョング/パク・ヘイル /ユン・ジェムン/イ・ビョンジュン/リュ・へヨン

2019年1月5日(土)シネマート新宿ほかにて公開
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