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どんな人物を演じても説得力がある、台湾を代表する実力派俳優クー・ユールンが主演の一人を務めた2015年の「あなたを、想う。」が日本で公開された。
公開に合わせて、来日したクー・ユールンに、この機にこれまでの映画人生、そして映画への想いを語ってもらった。
真っ先に聞きたかったのは、やはりエドワード・ヤン監督のこと。彼は「牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件」と「カップルズ」をはじめ、遺作となった「ヤンヤン 夏の思い出」にも顔を出している。
「エドワード・ヤン監督にとって僕は一番良くできた弟子でありたい、ずっとそんな風に思ってきました。ただ、監督のすごさというものを実感したのは、大学で演技を学んだ後の20代の頃のことでした。『牯嶺街〜』の4時間近いディレクターズ・カット版が公開されて見に行ったんですが、とにかく心が震えましたね。映画ってこんな世界を作ることができるんだ、監督が築き上げた映画の世界というのは本当に完成度が高いんだということがわかり、改めてすごいなと感じたんです」
「あなたを、想う。」のシルヴィア・チャン監督は、ヤン監督について「素晴らしい才能の持ち主」と褒めつつも「完璧主義のあまり、つき合いにくい人だった」と言っていたが、クー・ユールンにとってはどうだったのだろう。
「監督は俳優には優しくて、いつもにこやかでお父さんのように接してくれました。スタッフの方々は怖かったというけれど、俳優の立場からはそうではなかったですね。監督はとても俳優を愛していたし、機嫌の悪いところは見たことがなかったです。残念なのは、僕の分別がついた頃、監督はもうこの世を去っていて、大人として監督とじっくり話す機会をもてなかったことですね。叶うなら『監督、教えてください。僕が今見ている現実と、監督が見ていた現実との間に差はありますか?』と聞いてみたいです」
ヤン監督と同世代の映画監督であり、俳優でもあるクー・イージェンの息子として生まれ、子役から自然に俳優となったクー・ユールン。演技にとどまらず、映画という表現全般に深く関わっていこうとする彼が、父から大きな影響を受けたのは間違いない。
「父に連れられて『台北ストーリー』の現場に行ったのが4歳のときでした。出演していた父が、ある場面でどうしてもセリフに詰まってしまい、僕がその横で脚本を読んで、父に『ここはこういうことを言っているんだよ』と解説したんです。みんなそれを聞いて、息子のほうが偉いなと爆笑していたのをよく覚えています。子供の頃からずっと映画の世界にいて、一度も辞めたいと思ったり、疑問を感じたりしたことはありません。最初は映画の制作に興味がありましたが、父から『映画を作るのはとても大変だよ。違うことをやったほうがいい』と言われたんです(笑)」
国立台北芸術大学で演技を専攻した彼は兵役後、父の推薦で映像制作会社に入社。そこで学んだことが今に繋がっている。
「会社ではまず裏方の仕事、いわゆるアシスタントのような仕事をやりました。そして編集、撮影、美術など全般的なことを学んで監督もしましたね。ただ、当時は台湾映画界が振るわない時期で、主な仕事はCMでした。そうして、7〜8年経って『やはり俳優がやりたい』と父に言ったんです。それで台北のあるカフェに入りました。10分くらい二人ともずっと黙っていたんですが、父が『俳優か。大変だよ』と、とても愛情のこもった口調で一言だけ言ったんです。それがちょうど28歳でした」