2019年、ポン・ジュノ監督とともに韓国映画界を大いに賑わせたのが「はちどり」の監督、キム・ボラだ。中学2年の女子中学生ウニの日常を切り取ったキム・ボラの長編デビュー作「はちどり」は、2018年に釜山国際映画祭でワールドプレミア上映され、NETPAC賞・観客賞を受賞。翌年、ベルリン国際映画祭では子どもの成長を描いた映画を上映するジェネレーション14plus部門で大賞を受賞し、その後も韓国国内のみならず世界各地の映画祭で50にも及ぶさまざまな賞に輝いた。韓国では2019年8月に公開され14万人を超える観客を動員、独立映画としては異例の大ヒットを記録した話題作「はちどり」が4月25日(土)より、東京ユーロスペースを皮切りに劇場公開されることになった。日本公開を前に、全4回にわたり、キム・ボラ監督に「はちどり」の世界について語ってもらった。
「はちどり」は、ソウル・大峙洞(テチドン)に住む中学2年生のウニが1994年の夏から秋にかけて体験するさまざまな出来事を通して成長していく姿を描いている。韓国の1994年といえば、1988年のソウル・オリンピックのためにあまりにも急激な経済成長を遂げた歪みからくる綻びがあちこちに顔を出し始めたころだった。映画でも大事なモチーフのひとつとなっているのが、1994年に起こった聖水(ソンス)大橋崩壊事故だ。聖水大橋は、ソウル中心部を横断する漢江(ハンガン)にかかる橋のひとつで、江南・狎鴎亭(アックジョン)と対岸の聖水洞をつないでおり、都心に向かう市民の足を支える大事な橋だった。事故の原因は施行時の手抜き工事。高度成長の綻びが人々の前に現実として現れた事故だった。
「聖水大橋の事故があったので1994年を背景にしました。この映画はウニの成長映画というだけでなく、韓国社会の成長も含んでいるんです。物理的な橋の崩壊という事故が、ウニという主人公の内面、主人公を取り巻く人々の関係、社会や家族がどのように密接に繋がっているのか、“個”と“事故”をどうすれば映画的な大きな構造として描けるのか、また、“個”と“事故”の連結のようなものを映画で見せたいという思いがあったんです」
1994年の翌年には三豊百貨店の崩壊事故があり、2014年にはセウォル号沈没事故があった。韓国の観客たちは、それぞれの記憶の中にある“大切な人を突然亡くした喪失感”を「はちどり」を見ながら重ねあわせた。そして、小学生でも高校生でもない、中学2年生という微妙で多感な年齢でそれを体験するというところも「はちどり」の重要なポイントだ。