MOVIE / COLUMN
[再配信] 「台北暮色」
その音・その音楽をめぐって

アップリンク・クラウドが展開する「Help! The 映画配給会社プロジェクト」。配給会社別に映画見放題パック配信を行っている。そこに、アジアと日本を結ぶカルチャーサイト、A PEOPLE(エーピープル)が参加。「台北暮色」、「慶州(キョンジュ)ヒョンとユニ」、「あなたを、想う。(念念)」、「ひと夏のファンタジア」、「春の夢」(スプリングハズカム配給)の5作品を配信中。そこで、映画評論家・賀来タクトによる「台北暮色」レビューを再配信する。


ホアン・シーは自らを口下手と発言している。人見知りというわけではないが、自ら率先して話そうとはしない。取材においても、こちらが言葉を重ねないと、多くを語ろうとしない。放っておくと、ただ黙って微笑んでいる。無駄口がない。慎ましい。ハロウィンで賑わう渋谷の街にも、ひとりで散歩にでかけた。りりしい。

そんな彼女が、饒舌になる瞬間があった。音に関する話題だ。ホウ・シャオシェン作品の常連作曲家にして本作品の音楽担当リン・チャンについて問うと、現場で採取した音のこと、音と音楽の兼ね合い、映画の終盤、救急車のサイレン音をあえて延ばして入れようとしたことなど、音の話題が数珠つなぎに出てくる。いつまでも話題が尽きない様子だった。

実際、映画「台北暮色」の魅力のひとつに、音がある。正確には、音の扱い。概ね会話劇で、静かなドラマ仕立てである。単純に音の量でいけば、少ない。少なくて当然。もちろん、量の問題ではない。どの音も丸い、というべきか。映画の冒頭から姿勢は明らかで、街中で車を運転するフォン(クー・ユールン)のくだりで明白だろう。雑踏、喧噪のたぐいの音は遠目で、前面に押し寄せてこない。コンビニのくだりもほぼ同様。台詞もいい位置に設定されていて、ほかの音の中に埋もれていない。聴き取りやすい。どの音を大事にしているかが場面ごとに明快で、音楽との衝突などは一度もない。フォンとシュー(リマ・ジタン)が疾走する場面あたりが音楽の音量としてはピークだが、映像の躍動に即して、これも的確な采配。

平たく言えば、ストレスのほとんどない音仕様。音のデザインが誠、繊細であり、ほとんどサブリミナルなレベルで映画の進行に貢献しているといっていい。音が物語を運ぶ。映画を見やすくする。

音にぞんざいな映画が巷にはあふれている。最前列の横一線に台詞や効果音、音楽を並べ、音量を強めているだけのような作品が。それら、もはや度し難い作品群にあって、台湾の新人監督が手がけた小さな台北の物語は、その映像と同様、淡くまばゆい光を音の面で放っている。無論、時間とお金、そして優れた音響技師が備わったハリウッド映画の技術には及んでいない。しかし、音へのこだわり、音の扱い如何で映画がどれほど豊かに輝くか、それを一考する好例になっていることは間違いない。

実はホアン・シー、ニューヨークでの留学中は、撮影現場でマイク持ちをやっていたとのこと。黙して耳に神経を集中させる日々だったのである。さもありなんの寡黙な性分と処女作、であったか。

文:賀来タクト


「台北暮色」
ホウ・シャオシェンは言う。「現在の台北を描いたのは、エドワード・ヤン以来だ」。女性監督、ホアン・シーのデビュー作品。惹きつけられる、目が離せないカットの数々。台北の街、路地、鉄道、道路、そこに降る雨、そこにある水たまり、その美しさ。もろくも孤独な魂たちが、美しく、強く結ばれるとき。台湾新生代の感覚が鮮烈に表象される。ホウ・シャオシェンが製作総指揮を務めた。A PEOPLE CINEMA第1回配給作品。 キネマ旬報2018年ベストテン67位/アジア映画11位(A PEOPLE調べ)。

監督・脚本:ホアン・シー
製作総指揮:ホウ・シャオシェン
出演:リマ・ジタン/クー・ユールン/ホアン・ユエン
2017年製作/107分/台湾
原題:強尼・凱克 Missing Johnny
配給:A PEOPLE CINEMA

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台北暮色」新たな時代の、孤独とコミュニケーションをめぐって
相田冬二 × 小林淳一

「台北暮色」その音・その音楽をめぐって
PEOPLE / ホアン・シー
「台北暮色」Nulbarichの音楽が、物語を紡ぐ


映画「台北暮色」ブルーレイ&DVD 2019年10月21日発売開始!

「台北暮色」
2018年11月24日(金)~東京 ユーロスペース他全国で公開中

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「あなたを、想う。」公式サイト