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俳優で見る「台湾ニューシネマ×台北暮色」その5
ホウ・シャオシェン

「台北暮色」のプロデューサーを務めたホウ・シャオシェン(侯孝賢)がこれまで、自身の監督作とは別に多くの作品をプロデュースしてきたことを知る人は多いと思う。その中にはチャン・イーモウの「紅夢」(’91)や、盟友ウー・ニェンチェン(呉念真)が監督・脚本を手がけた「多桑/父さん」(’94)、もう少し新しいところではグイ・ルンメイ(桂綸鎂)主演の「台北カフェ・ストーリー」(’10)などがある。その一方で、彼は俳優としても大きな足跡を残している。

ホウ監督の最初の自伝的作品とされる1983年の「風櫃の少年」は、主人公の仲間アーロン(阿栄)の姉のボーイフレンド、という役どころで自身が出演している。そして、この映画で主人公のアーチン(阿清)を演じたのは、長らく俳優として活躍し(監督の「ミレニアム・マンボ」(’01)にも出演)、2007年に監督デビューし「モンガに散る」(’10)が高く評価されたニウ・チェンザー(鈕承澤)だった。

映画監督が自身の作品に登場したり、純粋に俳優として演技したりすることはよくあることだ。産業として成立しているとは言い難かった80年代の台湾映画界では、作品を作るために誰もが様々な役割を担うのは当たり前で、出演することも例外ではなかった。「風櫃の少年」と同年に封切られたエドワード・ヤン(楊徳昌)監督の「海辺の一日」にも、ホウ・シャオシェンはシルビア・チャン(張艾嘉)演じる主人公の夫の同僚役で顔を出している。ヤン監督の長編第1作で、台湾ニューシネマの記念碑的作品とも言える本作には、ほかに共に脚本を担当したウー・ニェンチェン、当連載の1回目で触れたクー・イージェン(柯一正)監督、「スーパーシチズン 超級大国民」(’95)のワン・レン(萬仁)監督など錚々たる顔ぶれが、同じく同僚役を務めた。

ほんの顔見せだった「海辺の一日」に続いて、エドワード・ヤンが手がけた「台北ストーリー」ではホウ・シャオシェンは主人公にキャスティングされた。その役柄は、今は家業の生地問屋を継いでいるが、少年野球のエースとして活躍したかつての栄光を忘れられずにいるアリョン(阿隆)という男。幼馴染みの恋人アジン(阿貞)は働いていた会社をクビになり、一緒にアメリカへ移住しようと言うがアリョンは煮え切らない。経済成長を遂げて急速に変化する80年代の台北を背景に、過去にとらわれた男を演じた彼は、監督から演技について特に何か注文されたようなことはなかったと語っている。この演技で第22回金馬奨最優秀男優賞の候補となると共に、「童年往時」が作品と監督賞でノミネートされた。

ホウ・シャオシェンは以降もいくつかの作品に俳優として出演しているが、主演作はこれ一作のみ。この作品では主演だけでなく、脚本にも名を連ね、300万台湾ドルもの製作費まで提供している。だが、それでも資金が足りず、親しい友人からさらに300万ドルを借りてようやく完成に漕ぎ着けたという。その親友が誰かと言えば「台北暮色」のホアン・シー(黄煕)監督の父親なのだ。「台北ストーリー」から「台北暮色」へ。二つの作品を結ぶ深い縁を感じずにはいられない。

文:小田香


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「台北暮色」
2018年11月24日(金)~東京 ユーロスペース他全国で公開中

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