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photo:星川洋助

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リム・カーワイ
香港映画祭2021

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夏目深雪


「深秋の愛」「夢の向こうに」など注目の7本

香港の言論と表現の自由が、中国政府によりますます厳しいことになっていると言われている。

今夏、大阪・京都で開催された「香港インディペンデント映画祭2021」では、香港の活動家エドワード・レオンを描いた「僕は屈しない」や、香港理工大学での警察と学生との11日間にわたる攻防を描いた「理大囲城」など、いまだ続く香港民主化デモに関するドキュメンタリー作品が目立った。

だが、ここにきて、11月末から年末にかけて香港映画、特に商業映画にスポットを当てた映画祭を開催するという。「香港映画祭2021」。カラ・ワイ、カリーナ・ラム、アンソニー・ウォン等往年のスターが華を添え、世界の映画祭を席巻したという7作品。

これはリム・カーワイ監督による“復活・香港映画”ののろしなのだろうか。リム監督にインタビューを行った。

――そもそも何故香港なのか、リム監督と香港の関わりを教えてください。

僕は中華系マレーシア人で、両親は台湾の映画や音楽に影響を受けていましたが、僕自身が小さい頃から親しんでいたのは香港の映画や音楽等のサブカルチャーでした。これはマレーシアだけではなく、東南アジア全域のことだと思いますが。自分にとって香港の文化は精神的な糧でした。

――ヤスミン・アフマド「細い目」も、金城武のファンのマレー系の女の子と、露天で海賊版のCDやDVDや売る中華系の少年のラブストーリーでしたね。

80年代は香港の黄金時代でしたよね。テレビドラマやあとレスリー・チャンやアニタ・ムイなどのポップス。ジャッキー・チェンの映画も大ヒットして、マレー系・インド系・中華系、出自にかかわらず夢中になった。香港に対する憧れはずっとあったんですが、高校卒業後日本に来てからは、香港との関係がいったん切断されました。

97年に香港が中国に返還され、2000年以降はやはりその力が衰えたのは否定できません。僕自身は、2004年から中国の北京電影学院で映画の勉強を始めました。その頃は中国も今ほどマーケットも大きくなくて、資金力もないので、香港の資金や人材、技術を当てにしていたんです。僕が初めてインターンとして関わった映画も香港映画で、そこで香港の映画人とネットワークができたんです。

その後、自分も香港で映画を3本撮りました。まず「マジック&ロス」、これはスタッフも香港人が中心でした。「恋するミナミ」も3/1は香港で撮りました。その後今回の「香港映画祭で上映する「深秋の愛」。香港の大手映画会社エンペラーのもと、撮影は広州と上海ですが、スタッフはみな香港人です。

――リム監督の早撮りは香港映画の影響でしょうか。

香港映画は確かに1カ月以内で撮りきらないと駄目なのが常識で、「深秋の愛」の撮影日数は21日です。中国は最近早くなってますが、当時は60日が定番でしたね。

――リム監督が初めて香港映画に関する映画祭を行ったのは2017年に開催された「日本・香港インディペンデント映画祭」でしたね。これはどういった経緯で?

「深秋の愛」を撮ったのが2014年11月で、雨傘運動の真っ最中です。準備していたのは6月で、まだ雨傘運動は始まっていなかったんだけど、7月1日のビクトリアパークでのデモに、僕も参加しました。

インイジ(影意志)という、香港でやっている香港インディペンデント映画祭の主催者に誘われたからです。僕の「マジック&ロス」や「恋するミナミ」を上映してくれて、そこから付き合いが始まって。

僕が自分のSNSでデモのことを呟いていたら、その頃はまだ雨傘運動も起きていなかったし、日本では反中デモのことは報道されていなかったから、アップリンクの浅井隆さんがwebDICEに記事を書いてくれと言ってきて、書いたりしました。

――すごく話題になりましたね。

撮影の準備をしながら毎日デモの現場に行っていたんですが、やはり深く感動しました。占拠していたのは79日間だけだったけど、香港の一番綺麗な時だったと思います。電車も動かないから空気もよくて、夜になると星が見えた。たくさんの若い人が雑魚寝して、助け合っていたんです。

撮影が終わって年末に香港に戻ったら、それらは全て消えていて、悲しかった。みんな雨傘運動は失敗したと言っていたけど、僕は全然そう思ってなかった。強制的に撤去されたんですけど、みんなあきらめないんじゃないかと。案の定、2019年にまた大規模なデモが起こりました。

編集作業で2014年から16年も香港にいて、自分でも何かできないかと思っていたんです。2016年に「乱世備忘 僕らの雨傘運動」という映画が完成され、香港インディペンデント映画祭で上映されたので観たんです。日本・香港インディペンデント映画祭2017でも上映したその映画が、直接のきっかけになりましたね。

――この時はイン・リャン監督の香港亡命後の初作品「九月二十八日、晴れ」や、中国当局の監視下に置かれた芸術村を舞台にした「アウト・オブ・フレーム」など、中国人監督の作品や中国を題材にした作品も上映されましたね。

あまり国は関係なく、テーマで選んでいます。表現の自由の問題や中国当局とどう向き合うかは当時香港で最も差し迫った問題でした。

――「香港インディペンデント映画祭2021」はポリティカルな映画が多かったですね。

2016年以降の映画を中心にセレクションしていますが、圧倒的にドキュメンタリー映画が増えてるんですよ。状況がドキュメンタリー映画というジャンルを開いた面があるのではないかと思っています。

――「あなたを、想う。」や「逆向誘拐」も、アート系映画とも商業映画とも言い難い、なんというか、区分けに困る映画ですね。

2016年以降香港の商業映画は、マイノリティに目を向けた映画が主流になっているんです。
香港政府の新人監督向けの助成金制度を利用した作品で、香港でもヒットしています。車椅子の老人とフィリピン人メイドとの交流を描いた「淪落の人」や、「大阪アジアン映画祭」で上映された、寝たきりの母親を一人で看病する息子を描いた「誰がための日々」などですね。

それ自体は勿論いいことではあるんですが、僕の考えでは社会の変化に対峙していない。「逆向誘拐」は、若者の上の世代や既存の体制に対する反抗が描かれていて、今の香港のスピリットを映し取っているのではないかと思い、上映しました。

――そして「香港映画祭2021」が開催されることになりました。

香港映画というと、メインストリームはアクション映画、そしてアン・ホイなどの映画祭で上映される作品ですね。商業映画でも、日本の観客は観たことのないようなタイプの作品が色々とあるので、それらを中心にラインナップしました。

――どれも面白そうですが、東京フィルメックスで直前になって上映が発表され話題になった、民主化運動を描いたドキュメンタリー「時代革命」のキウィ・チョウ監督の作品「夢の向こうに」が目を引きますね。「十年」にも参加していた監督で、興行的にも成功したラブストーリーで、香港アカデミー賞も受賞した作品を撮っていたというのは意外ですが……。

もともと商業映画を目指してデビューした監督の2作目になります。「夢の向こうに」が大ヒットして、彼に投資したいプロデューサーも何人か出てきたんですが、「時代革命」を撮ったことによって、みんな去ってしまったらしいです。

他にも、カラ・ワイの近年の代表作「幸福な私」、ジャッキー・チュンとカリーナ・ラムという大スターの共演作「暗色天堂」、チャン・チェン(張震)の父親チャン・グオチュー(張国柱)の主演作「酒徒」と、香港映画ファンも映画ファンも満足できるラインナップになっています。ぜひ今年は香港映画で年を越してください。

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「深秋の恋」(監督:リム・カーワイ)


「香港映画祭2021」

11月27日~12月3日/大阪 シネ・ヌーヴォ
12月3日~12月9日/京都 出町座
12月11日~12月17日/兵庫 元町映画館
12月18日~12月24日/愛知 シネマスコーレ
12月29日、30日/東京 渋谷 ユーロライブ


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