CULTURE / MOVIE
ホン・サンス　×　チャン・リュル
名画座２本立ての楽しみ方

キネカ大森にて、3月20日より「正しい日 間違えた日」「慶州（キョンジュ） ヒョンとユニの2本立て上映が行われる。

ホン・サンスとチャン・リュル、それぞれ強烈な作家性を持つこのふたりの監督。韓国では何かと比較されることの多いふたりだが、それは、2014年に始まった。ホン・サンスの「自由が丘で」、チャン・リュルの「慶州（キョンジュ） ヒョンとユニ」が同年に韓国で公開されたためだ。どちらも映画評論家たちから高く評価され、韓国を代表する映画雑誌「CINE21」は2014年を代表する映画ベスト10の1位に「自由が丘で」、２位に「慶州」を選んだ。ホン・サンスは1961年生まれ、チャン・リュルは1962年生まれとほぼ同年代ではあるが、映画監督としてのデビューはホン・サンスが先だ。2014年当時、ホン・サンスは「カンウォンドの恋」（1998）、「ハハハ」（2010）、「3人のアンヌ」（2012）などでカンヌ国際映画祭の常連となり、すでに独自の“ホン・サンス・スタイル”を確立していた。一方のチャン・リュルは、朝鮮族のシングルマザーの悲しい運命を描く「キムチを売る女」（2005）や、韓国で働く外国人労働者の日常を収めたドキュメンタリー「風景」（2013）など、中国の朝鮮族出身という自身のアイデンティティと真摯に向き合う硬派な作品で知られていた。それが「慶州」でガラリと作風が変化した。 すでに“ホン・サンス・スタイル”に慣れ親しんでいた観客たちは、ホン・サンスの映画でよく見る“韓国の地方都市で男女が酒を酌み交わすロマンティック・コメディ”である「慶州」を見て口々に“ホン・サンスっぽい”と賞し、ここからホン・サンスとチャン・リュルの比較論が増えていった。

両監督は共通点も多い。韓国の映画監督の中でも、この両監督は特にベルリン国際映画祭に愛されているといえるだろう。今年、ホン・サンスは最新作「逃げた女」で最優秀監督賞を受賞、そして、チャン・リュルも最新作「福岡」が昨年のフォーラム部門で上映されている。また、ムン・ソリ、チョン・ジニョン、クォン・ヘヒョら、両監督の作品でよく顔を見かける共通の常連俳優もいる。

「正しい日　間違えた日」

だからといって、ホン・サンスとチャン・リュルの作風が似ているとは全くもって言い難い。両親共に映画製作関係者という裕福な家庭に育ったソウル生まれのホン・サンスと、中国出身の朝鮮族で小説家から映画監督に転身したチャン・リュル。生まれも育った環境も全く違うふたりが似たような映画を撮れるはずがないのだ。ムン・ソリは両監督の違いをこう語っている。「チャン・リュル監督は台本が完成してから撮るけど、ホン・サンス監督は全然違う。ホン・サンス監督の映画にお酒を飲むシーンが多いので、海外の映画祭では緑の小瓶（韓国の焼酎）が出てくるだけで“ホン・サンスっぽい”と言われる」と。

今回、キネカ大森で同時上映されるホン・サンスの「正しい日 間違えた日」とチャン・リュルの「慶州」は、おおざっぱにまとめるならどちらも“若くて美しくて才能豊かでどこかミステリアスな魅力的を持つ女性と、優柔不断で少し無責任なところがあるにもかかわらず女性にはモテる既婚男性とのユニークなラブストーリー”だ。「正しい日 間違えた日」はソウルから車で1時間ほどの距離にある水原（スウォン）、「慶州」は韓国東南部にある都市・慶州と、ともに世界遺産を有する歴史の街が舞台という共通点もある。第1部と第2部で同じ登場人物たちが同じ設定の中で微妙に違うストーリーを繰り広げる「正しい日 間違えた日」、そして、「慶州」でも古墳公園や新慶州駅、茶屋など同じ場所を何度も訪れながら物語が進んでいく。一度見た景色がまた違う意味を含んで頭の中で新しい景色として広がり、さらに立体的な想像を膨らませてくれる楽しい仕掛けがある。また、ホン・サンスは「正しい日 間違えた日」がきっかけでキム・ミニと恋人関係になり、本作以降は作風が変化したといわれる。両監督のターニングポイントとなった作品という共通点からこの2作品を見ても面白いのではないだろうか。ちなみに、両作品とも登場する焼酎の銘柄はチャミスルだ。

そんな2作品の共通点を探しながら見ていると、最終的には両監督の個性の違いを大いに感じさせられることになる。柔らかい映像の中にシニカルな主張を散りばめるホン・サンスと、堅い映像の中に大らかな優しいロマンを感じさせるチャン・リュル。ホン・サンスの視線はとてもローカルで、チャン・リュルはとてもグローバルだ。ホン・サンスがカンヌやハンブルグを舞台に撮っても韓国を映し出すように、チャン・リュルは2000年の歴史を持つ慶州を異邦人の目線から映し出す。両監督のこの目線はこれからも変わらないだろうか。「正しい日 間違えた日」「慶州」を基準に判断していこうと思う。

Written by : 大森美紀

「慶州（キョンジュ）ヒョンとユニ」