── インディーズが「次の段階」に入ったということですか。
そうですね。制作費100万円ぐらいで撮った作品が、他のアジアの映画を差し置いてグランプリを獲ったりもした。そうなると応募も格段に増えますよね。それは小さな映画祭だからできることだと思います。大きな映画祭では、100万円の映画をコンペで上映するのは憚れるところがあります。フィルメックスはもともと小規模な映画祭ですから、ゲリラ的に低予算で撮ったものも、メインの場に出す。それがむしろ強みだと思っています。
逆に言うと、可能性が広がって、いろいろな映画が出てくるようになると、どれを選ぶのか? その視点が試されます。かつて以上に「自信を持って選ぶ」、その緊張感を持って臨むことが必要だとは思っています。
── 小さな映画祭には確固たる「カラー」があります。このカラーにフィルメックスの観客は魅了されているし、信頼もしています。作品選定の基準はどこにありますか。
たとえば、期待している監督の新作があるとします。もちろん(出来が)ダメだったら、もちろん選ばない。面白かったら、選ぶ。もし、その監督が同じことを繰り返していたら、興味を失くすということはありますね。いや、同じことをやっていても凄いツァイ・ミンリャンなんかもいたりするのですが(笑)。今回で言えば中国のペマツェテン。フィルメックスにはもう4回参加しているし、2回グランプリも獲っている。その監督の新作「気球」をコンペに出すかどうかは悩みました。でも、また新しいチャレンジをしているんですよ! 前作「轢き殺された羊』もチャレンジしていましたが、アートに向かったり、ドラマに振ったり、毎回チャレンジしている。これは特別招待ではなく、コンペだなと。常連のお客様の中には「またペマツェテンか」と思われる方もいるかもしれませんが(笑)。
あと、新人監督に関しては、その監督が属している国の映画、たとえばイラン映画、インド映画、フィリピン映画の「過去」に対抗する作品になっているか。このことはよく考えますね。たとえばイラン映画は最近だと、アスガー・ハルファディ風のものが多い。かつて(ジャファル・パナヒの)「白い風船」が賞を獲ったとき、児童映画が溢れかえったし、(アッバス・)キアロスタミ的なもので国際映画祭を狙うイラン映画が多くなりました。同じ傾向のものだと、やはり「ハルファディのほうが面白い」ということにもなる。自分の国で作られているものから、どこか脱却しようとしているもの、独自のものを目指しているもの。そういう作品は上映したくなりますね。決して斬新さを求めているわけではなく、いい意味で「期待を裏切る」驚きものを、結果的にコンペに選んでいる気がします。
── 昨年に上映されたキアロスタミの遺作「24フレーム」は、まさにキアロスタミがキアロスタミから「脱却」していましたね。
もちろん、彼はあれを最後にしようとは思っていなかったでしょうが、最後の映画でああいう境地に往くというのはすごいことだと思います。彼は常に挑戦していた。特に晩年はイタリアで撮ったり、日本で撮ったりしていましたからね。
── ええ。結果的にですが、「24フレーム」は東京フィルメックスの精神性を浴びる映画体験でした。
Written by:相田冬二
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第20回 東京フィルメックス / TOKYO FILMeX 2019
2019年11月23日(土)~12月1日(日)
会場
【メイン会場】有楽町朝日ホール(有楽町マリオン) 11/23(土)〜12/1(日)
【レイトショー会場】TOHOシネマズ 日比谷 11/23(土)〜12/1(日)
【併催事業:人材育成ワークショップ】<Talents Tokyo 2019> 11/25(月)〜11/30(土) 有楽町朝日スクエアB