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「この映画はまるごと、僕の思考なのです(笑)。夢と現実を言葉で説明するのは、とても難しい。また、夢と現実には明確なボーダーラインがないと思います。しかし、そのボーダーラインはあるようにも思う。その曖昧なラインに、わたしたちクリエイターが、創作の上で何らかのかたちでふれ、踏み込むことができたのだとすれば、夢、現実、双方の景観を見ることができるでしょう。言語によって表現できるものもあれば、言葉にすることによって「取りこぼされてしまうもの」もあるでしょう。それは、映画でこそ表現できるのかもしれません。夢は、時間のさまざまな状態が交錯しているものだと思います。この映画の中には次のような台詞があります」

「夢とは、忘却された記憶であり、人々の記憶を操る言語である」

取りこぼされてしまうもの。 映画はそこを見つめている。それこそが映画の可能性だと言わんばかりに。

「それは、創作の際に、必ず自問自答していることでもありました。映画は、どうしたって具体的になってしまうものなんです。しかし、できるだけ、「掴まえにくいもの」を撮ろうとしています。それは一見、矛盾しているように見えるかもしれませんが、矛盾を創出し、その矛盾について自分の中で手応えを感じられたら、その作品は自分のものになっていく。そのためにも映像言語は存在していると思っています。そして、映画が、わたしたちに残してくれるものは、余韻です」

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この映画のアイデアは、実現してしまうのが惜しいくらいのアイデアだ。彼は実現してしまったわけだが、実現することに躊躇はなかったのか。

「面白い質問ですね。映画を創る上で、楽しいなと思うことがいくつかあります。そのひとつは、脚本が完成したとき、それを燃やしたいという欲望に駆られることです。僕に、映画的な才能があるかどうかは疑問です。しかし、我ながら特殊な才能がひとつあります。それは、いかなる状況でも眠れるということ(笑)。昨日のことはすぐ忘却する。それが僕の能力です。映画の撮影中、スタッフの中でいちばんよく寝ているのは僕です」

このふたつの自己批評が、そのまま「終わること」「終わらないこと」の返答になっていることこそ、ビー・ガンという男のアイデンティティである。

ポートレイトの撮影中、「わたしも、いつでもどこでも眠れるんです」と伝えると、「今日は哲学的な語らいになりましたね」と愛らしい笑顔を浮かべた。

Written by:相田冬二

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「ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ」


「ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ」
監督:ビー・ガン
出演:タン・ウェイ/ホアン・ジェ/シルヴィア・チャン
©️2018 Dangmai Films Co., LTD, Zhejiang Huace Film & TV Co., LTD -
Wild Bunch / ReallyLikeFilms

2月28日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、新宿ピカデリーほか全国縦断ロードショー


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