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筒井真理子 × ホン・サンス
「小説家の映画」

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賀来タクト


私がホン・サンス監督に
会いにいっているんでしょうね

2023年6月20日、東京は渋谷・ユーロライブにてホン・サンス監督作品「小説家の映画」劇場公開(6月30日)を記念してのトークイベントが催された。矢田部吉彦(前東京国際映画祭ディレクター)の進行役のもと、ゲストとして迎えられたのは女優の筒井真理子。無類のホン・サンス好きとして知られる彼女だが、この作品も例外ではなかった。

「(『小説家の映画』は)これまでと違わず、ステキな映画ですね。実はもう、3回、拝見しています(笑)。1回目は字幕を追いかけるので必死でして、2回目で(出演者の)表情とかを見て、3回目では“あの役者さん、あのとき(台詞を)話していなかったけど、どんな顔をしていたんだろう”っていうところを見たくなって(笑)。でも、見れば見るほど発見がいっぱいありますし、さらに楽しくなっていくんです。職業病だと思うんですけど、やっぱり、役者さんを中心に見てしまいますね。みなさん、素晴らしいです。(ジュニ役の)イ・ヘヨンさんは『あなたの顔の前に』(2021)のとき凜とした伸びやかな姿を見せていらっしゃいましたけど、今回はひと癖あるキャラクターをやられていて、“こんなに変わることができるものだろうか”と驚きました。(本人にお目にかかれるなら)どう役作りをされたのかお伺いしたいです。(ギルス役の)キム・ミニさんも大好き。今回は最後の笑顔が目に焼き付いて離れません。キム・ミニさんに語りかけている声はホン・サンスさんですよね? たまらない笑顔です」

ホン・サンス作品との出逢いについて。

「そもそも私は(ホン・サンス作品に関しては)遅れてきた人間で、『へウォンの恋愛日記』(2013)が最初に見た作品です。あの、ビヨヨンってなるズームアップがあるじゃないですか(笑)。あの“ホン・サンス・ズーム”がすごいなって思って。あれ、(一種の)発明だと思うんですけど、なかなかできないじゃないですか。あと、酔っ払っているお芝居がみなさん、お上手で。私には“人はこうだっていうことを隠そうとするもの”という考えがあって、酔っ払っているときは酔っ払っていないようにして隠そうとする。だから、酔っぱらいの演技をするときって、そうではない演技をしようとするんですけど、それが(『へウォンの恋愛日記』の出演者は)見事にできていらっしゃる。お上手だなって思ったら、実は(出演者は)本当にお酒を呑んでいらしたんですってね(笑)。うらやましいな、ちょっとやってみたいなって思いました(笑)」

ホン・サンス作品の台詞について。

「『自由が丘で』(2014)に出演された加瀬亮さんに伺ったら、まず3日間くらい、みんなで話をして、(監督が出演者の)人となりを理解されるそうですね。そして、台詞を(撮影の)当日に渡されると。本当に当日の朝に渡されるみたいです。(俳優から)いい演技を引き出すのにいろんなアプローチがあると思うんですけど、それも方法のひとつなんでしょうね。ただ、ホン監督は(俳優にとって)居心地のいい、何やってもいいんだよというような、包み込むような空間を作ってくださるそうです。おかげで、役者さんたちも自分をさらけ出すことが怖くなくなってくると。その一方で、加瀬さんいわく“台詞は一言一句、変えてはいけない”そうなんです。この『小説家の映画』でも公園でのシーンでイ・ヘヨンさんには長い台詞があるじゃないですか。しかも、ずっとワンカットで撮られていて。(もし自分だったら)“これ、どうするのかな”って思っちゃいましたね(笑)。本当に台詞を撮影の日の朝に渡しているのかな(笑)。(撮影で台詞を)間違えたら、また最初から撮り直すみたいですけど、それを責めるような空気は少しもないそうです」

好きなホン・サンス作品について。

「どの作品も好きなんですけど、私が『フィルムメーカーズ24 ホン・サンス』(オムロ刊)の責任編集をやらせていただいたとき、『豚が井戸に落ちた日』(1996)だけ見られていなかったんです。でも、それを見ずして記事は書けないと思いまして、なんとか拝見したら、これがものすごく素晴らしくて。この作品を拝見したことで、自分の中でホン監督の作品が全部つながりました。こう言うと失礼に当たるかもしれませんが、ものすごくうまいんです。でも、その“うまさ”を次の作品から全部、捨て去っている。そんなことができるのかと。自分が獲得したものを惜しみなく捨てて、どんどんシンプルになっていっていますよね。本当にビックリします。『それから』(2017)の中ではキム・ミニさんが“私が信じている3つのこと”というのが出てきますけど、それはきっとホン監督の言葉なんだろうなって思います。そういうものがどの作品にもある。なぜこんなに中毒になるみたいに(ホン・サンス作品を)見に行きたくなるんだろうって思うんですけど、恐らく(作品を見ることで)私がホン監督に会いにいっているんでしょうね。(新作が次から次へと作られているので)頻繁に会えているわけですけど(笑)。出演されている方も常連の方が多いじゃないですか。この『小説家の映画』で映画監督を演じているクォン・ヘヒョさんは、『あなたの顔の前』のときイ・ヘヨンさんに対して(劇中で)いろいろあったじゃないですか。だから、今回の『小説家の映画』はその復讐なのかな、とか。(何度も見ていると)そういうふうに自分の中で勝手に物語を作ってしまうところもあって(笑)。ホン監督の作品にはそういう楽しみも毎回ありますね。『豚が井戸に落ちた日』もこの7月21日から公開されるということで、ぜひみなさんにもご覧いただけたらと思います。私が主演を務めさせていただいている映画『波紋』(2023)もただいま公開されておりますので、あわせてご覧いただけますと幸いです」

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「小説家の映画」


小説家の映画
監督・脚本・製作・撮影・編集・音楽:ホン・サンス
出演:イ・ヘヨン/キム・ミニ
2022年製作/92分
英題:The Novelist's Film
配給:ミモザフィルムズ
© 2022 JEONWONSA FILM CO. ALL RIGHTS RESERVED

6月30日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開


ホン・サンス特集上映開催
菊川 ストレンジャー

ホン・サンス特集タイムテーブル

日時:2023年6月20日(火)~7月6日(木)
最初期・転換期・現在期の9本をセレクト上映

韓流映画祭2023
豚が井戸に落ちた日

7月21日(金)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋にて開催


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