*

CULTURE / MOVIE
東京フィルメックス・グランプリ受賞作2本。
映画のルールを叩き割る迫力

日本には「女性映画」という呼称がある。明確なジャンルではない。主に女性を主人公にした作品が「女性映画」と呼ばれるが、逆に言えば、それだけ女優をメインアクトに据えた映画が少ないということでもある。ヒロインは多くの場合、男性主人公の添え物だ。男が「守るべき」存在、あるいは男を「おとしめる」存在として描かれる。いずれにせよ、男にとって都合がいいのが「映画の中の女性」であり、それは根本的にはいまだ変わることのない社会と世界の反映でもある。

ここに現れた2本の映画はそうした社会の映し鏡としての映画のルールを叩き割る迫力に満ちあふれている。奇しくもいずれも1980年代生まれ、ジャカルタ出身の女性が監督している。


* *

レイプされたひとりの女性が自分を襲った男どもを抹殺。そのうちのひとりの生首を手にぶら下げ、逃れの旅に出る。やがて出逢った女たちと連帯する主人公の道行きは章立てで展開。クエンティン・タランティーノ作品を思わせる構成に、西部劇の風味が加わり、ハイブリッドな活劇として屹立していく。そんな「殺人者マルリナ」は、古風なジャンルムービーの仕掛けに、現状打破のアンチテーゼを忍ばせ、反骨の魂を刻みつける。


* *

一方、「見えるもの、見えざるもの」は脳性麻痺に陥った双子の弟を見つめる少女の脳内で爆発し、溢れ出るイメージの奔流を捉える。とりわけ病室で、互いにペインティングを施し、鳥になって「ここではない何処か」に飛び立とうとする様は、アラン・パーカー監督の1984年作「バーディ」を彷彿とさせるパッションに貫かれて圧倒的だ。点滴の管をつけたまま鳥になっている弟の姿は、理屈を超えた感動を呼ぶ。さまざまな料理となって変奏される「卵」、そして具象でも抽象でもある情景としての「月」。繰り返されるこれらのモチーフは明らかに女性性のメタファーだが、暗喩の次元をはるかに超えたインパクトをもたらす。

現実に唯一対抗できるのは想像力。その確信が咲き誇る両作は、2017年の東京フィルメックスで揃ってグランプリに輝いた。

Written by:相田冬二


「殺人者マルリナ」(インドネシア、フランス、マレーシア、タイ/2017年)
監督:モーリー・スリヤ

「見えるもの、見えざるもの」(インドネシア、オランダ、オーストラリア、カタール/2017年)
監督:カミラ・アンディニ

第18回東京フィルメックス TOKYO FILMeX 2017
http://filmex.net/2017/

「時はどこへ?」「24フレーム」「泳ぎすぎた夜」
「とんぼの眼」
「ジョニーは行方不明」
「シャーマンの村」
「天使は白をまとう」
「ファンさん」