ウニが登下校に通る道や公園では、木々の緑の間から夏の強い太陽の光が差し込み、木洩れ日の眩さにハッとさせられる場面も多い。ふだん何気なく通り過ぎている日常の風景がとても美しく切り取られている。
「エドワード・ヤン監督の『ヤンヤン 夏の想い出』がとても好きなんです。日差しがとても美しく、同時に、美しさというものをとても上手に映し出している映画だと思います。もうひとつ、是枝裕和監督の『誰も知らない』もとても好きな映画。子どもたちが寂しさを知り、むなしさを知っている表情を見せるじゃないですか。それがとても画面に現れていて、とても悲しい話ではあるんですが、日差しがとても美しい。そんな色彩イメージがとても好きで、影響を受けていると思います」
「誰も知らない」と同じく、オーディションでウニ役のパク・ジフを発掘した。パク・ジフはすでに子役としてデビューしていたものの長編映画での本格的な演技は「はちどり」が初めてだ。
「やはりウニ役のキャスティングがいちばん重要だったので、最初に決めました。ウニが決まってから、ウニと少し似ている感じを持っている両親、そして兄、姉という順で決めていきました。漢文塾のヨンジ先生を演じたキム・セビョクさんは独立映画ではとても有名な俳優で、もともと注目していた方でした。キャスティングを確定させる前に、パク・ジフさんとキム・セビョクさんのふたりで台本読み合わせをやってもらったのですが、それを見て“このふたりならもうこの映画はできた、大丈夫だ”と思いました。ジフさんには今時の子どもが感じることについてたくさん話をしました。セビョクさんにはウニをひとりの人間として接する態度について話し合いました。決まった答えを導くというよりは、質問を多く投げかけ、俳優に実際に沸き起こる感情に沿っていこうと努力しました。いろいろ話し合うことが重要だと思います」
主人公のウニにとってあこがれの存在となるヨンジ先生。「はちどり」の中でヨンジ先生は監督の思いを伝える代弁者的な立場だともいえる。塾の先生でありながら生徒の前で煙草を吸ったりもする、ちょっとアナーキーな先生だ。
「ヨンジというキャラクターを立体的に描きたかったんです。いい人ではあるんですが、お決まりのいい先生である必要はないと思いました。ヨンジを通じて理想的な大人の姿を見せようと思い、私の考える理想的な大人は、ウニに煙草を吸うなとか、あれはダメ、これはするなとは言わないと思ったんです。映画では削除された場面に、ウニがヨンジに煙草をねだる場面がありました。ウニは好奇心から、記念にするから先生の煙草がほしいとねだるんですが、ヨンジはウニに煙草をあげて“本当に寂しいときに吸いなさい”と言うんです。とてもいいシーンだったんですが、つながりや尺の都合上カットすることに……。なぜそんな場面を作ったかというと、ウニに対して普通の大人が言うような小言をヨンジが言うとは思えなかったし、ヨンジはウニに毎日煙草を吸っていいとも言っていません。本当に寂しいときに一服しなさいというセリフで、子どもをよくない方向に行かせる人ではなく、人生に大切な教訓を与える人にしたかった。そして、ヨンジは実際にウニに本当に大切な教訓を与えて去ることになります。そんな立体的な部分を見せたかったんです」
「はちどり」でキム・ボラはプロデューサーも兼ねている。長編デビュー作でプロデュースも担当した意味とは?
──次回“キム・ボラが語る韓国・独立映画の可能性”に続く。
Written by:大森美紀
「はちどり」
*全4回企画 キム・ボラが語る「はちどり」の世界 第3回は6月17日(水)配信予定。
キム・ボラ
1981年11月30日生まれ。東国大学映画映像学科を卒業後、コロンビア大学院で映画を学ぶ。2011年に監督した短編「リコーダーのテスト」が、アメリカ監督協会による最優秀学生作品賞をはじめ、各国の映画祭で映画賞を受賞し、注目を集める。同作品は、2012年の学生アカデミー賞の韓国版ファイナリストにも残った。本作「はちどり」は、「リコーダーのテスト」で9歳だった主人公ウニのその後の物語である。
「はちどり」
監督・脚本:キム・ボラ
出演:パク・ジフ/キム・セビョク/イ・スンヨン/チョン・インギ
©2018 EPIPHANY FILMS. All Rights Reserved.
6月20日(土)ユーロスペースにてロードショー 全国順次公開
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