2019年11月2日、映画「あなたを、想う。」の公開初日に合わせて、ユーナン役で出演したクー・ユールンが来日し、渋谷ユーロスペースで舞台挨拶を行った。
「みなさん、こんばんは」と、客席に向けて日本語の挨拶で始めたユールンは、まず監督のシルヴィア・チャンについて語り始める。
「もともと女優をやられていた監督とは、僕がまだ5歳のときに映画で共演させてもらっています。僕の母親役でした。その後、20年間、仕事はおろか、合うこともなかったんですが、きっといろんな映画の中の僕を見て“ああ、成長したんだな”と思われたのでしょう(笑)。“一緒に映画を作りたい”とお話をいただけて、とても嬉しかったです。おかげで、今日、ここで日本のみなさんとお目にかかることもできたのですから」
現場での監督は「大きな海のようだった」と語り、「包み込むような優しさがある人。役者出身で、我々の立場を理解してくれるし、プロデューサーの経験もある。とにかく、すべてをゆだねればいい。そば屋のシーンで悩んでいたら“自由にやっていい”と言ってくれましたね。シルヴィア・チャンは空間を与えてくれる監督ですね。あと、この映画では(製作の都合上)ラストシーンを最初に撮ったんです。普通なら難しいことなんですが、監督なら大丈夫と思って演じました。現場では何の心配もありませんでした」とのこと。
演じるユーナンは台東・緑島(りょくとう)の出身という設定。今まで訪れたことはなかったが、役作りのために撮影前、一度行ってみたという。
「大きな島ではありません、走ってみたら3時間で回れました。年中、風が吹いているところです。強い風が吹きます。ただ、不思議なもので、緑島の風にいくら吹かれても風邪もひきません。それだけでなく、嫌な気分を吹き飛ばしてくれる。島の最も美しい場所は、映画にもいくらか出てきますが、海底ですね。みなさんも台湾に旅行されるときは、ぜひ緑島に行ってみてください。本当に美しい島ですから」
去る10月21日にDVDソフトが発売された出演作「台北暮色」(アマゾンにて発売中)のプロモーションも兼ねている今回、同作品については「時間をかけて役作りをした」と振り返る。
「ユーナンと違って『台北暮色』のフォンは都会的な人間。でも、共通しているのは芯が強いところ。どちらも、この難しい世界を生きようとする強い信念を持っています。(フォンがリタ・ジマン演じるシューと)コンビニ前で話すシーンは素晴らしいですね。ここでは僕が10歳のとき、父親に言えなかったことを、この場面を借りて話しています。父も見たら“そんなことを思っていたのか”と気づくでしょうね。みなさんもお見逃しなく」
日本で人気の「牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件」「カップルズ」という2作品については「みなさんの心のNo.1に挙げられる映画に関わることができて光栄」と語り、「『カップルズ』に出演したときは18歳。女の子の手も握ったことがなかったのに、キスシーンまでありました。何にもわかっていませんでした。でも、僕の瑞々しい青春を記録することができたのですから、エドワード・ヤン監督には感謝しなければいけませんね」と微笑む。
好きな日本の映画監督は小津安二郎、北野武、是枝裕和の3人。彼らのどの作品も好きだとのことだが、是枝作品では特に「海よりもまだ深く」の題名が挙がった。
「ほんの少しでもいいので、ご一緒する機会があれば嬉しいです」
現在、自身の映画会社も設立し、俳優業にとどまらない映像作品制作に熱を入れている。
「今の若い人と我々とでは映像に求めるものが違ってきています。僕の会社ではYouTubeを通じて、僕の活動をもっと知ってもらおうとしていて、そこで多くの支持をいただければ映画を作ることもできると思うんです。演技とは何か、映画とは何か、幸せとは何か、愛とは何か……。作品を通して、そういうことをみなさんに届けられたら嬉しいですね」
京都好きでも知られる人。これまで3度、訪れたという。
「役作りに長い時間がかかる映画の撮影と違って、京都では何もしなくても何百年も前に戻ることができる。不思議な感じですね。でも、そんな京都が大好きです」
過密な来日プロモーションのスケジュールでは京都行きはなかなかかなわないが、一方で東京に来るたびにやっていることがあると嬉しそうに話し始める。
「必ず渋谷のハチ公前に行きますね。ハチ公を撫でて、ハグして、“ご苦労様”と声をかけて写真を撮る。昨日、なんとか行くことができました。写真もいっぱい撮りました!映画もハチ公と同じです。みなさんのサポートがないと映画作りは立ち行きませんし、サポートをいただいてこそ、僕も映画に出られて感動をお届けすることができる。ハチ公も撫でてもらえたら嬉しいでしょう。この『あなたを、想う。』のこともぜひ応援してください」
お茶目でフシギな素顔は、緑島の風を連想させて、どうにもさわやかなのであった。
Written by : 賀来タクト
クー・ユールン(柯宇綸)
1977年4月28日生まれ。台湾出身。父は映画監督のクー・イージェン。83年の「搭錯車」から子役として活動。父が監督した「帶劍的小孩」やホウ・シャオシェン監督の「恋恋風塵」(86)、エドワード・ヤン監督の「「牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件」(91)などの作品に出演し、早くから台湾映画界を代表するバイプレイヤーとして存在感を示した。その後、再びエドワード・ヤン監督に起用された「カップルズ」(96)をはじめ、「一年之初」(06)、アン・リー監督の「ラスト、コーション」(07)「台北の朝、僕は恋をする」(10)など多くの作品で活躍。11年の「Jump Ashin」では各賞を受賞した。17年は「台北暮色」で味わい深い演技を披露した。
●クー・ユールン 「あなたを、想う。」舞台挨拶のお知らせ
■11月3日(日)
横浜シネマリン
18時~ 上映
20時~ 舞台挨拶
横浜シネマリンWebサイト https://cinemarine.co.jp/
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