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CULTURE / EVENT
「あなたを、想う。」
シルヴィア・チャン&蔭山征彦 in 多摩美術大学

去る9月27日、多摩美術大学にて、高橋周平教授による講義の一コマとして、シルヴィア・チャン監督のトークによる“授業”が行われた。当日は、シルヴィアたっての希望で、映画「あなたを、想う。」に脚本家として参加した俳優、蔭山征彦も登壇。学生たちのためだからこその、クリエーションをめぐる活気ある言葉が飛び交った。
 まず、シルヴィアは「描きたかったのは、私たち東洋人の美徳。心の中にはあるけれど、はっきり言えないこと。たとえば『恐れ入ります』『失礼します』。そういった気持ちを描こうとしました。みなさんもいま、前のほうの席ではなく、後ろの席でご覧になっている。きっと、奥ゆかしいのだと思います。このような気持ちは、家族や友人の間でもあると思います」と話し、「誰が聴いているか」への深い心配りを感じさせた。

女優としてスタートして監督、プロデューサー、そして脚本家としての道に進んでいったことについては次のように述べた。
「18歳のときに映画界に入りました。演技に関しては特別な訓練を受けたことは何もありません。なので、1本1本の出演経験が、私にとっては『大学』のようなものでした。どの映画のどの監督もどのスタッフも、私の『先生』です。この物語を、もし自分が語るとしたら、違う方法で出来るかもしれない。そうした好奇心が出発点です」
 また、「映画において重要なのは単なる見た目の美しさや凄さではありません。方法論が大切なのです。やはり自分独自の考え方を持つことが大事だと思います」とした上で、自身の具体的なエピソードを語った。
「若い頃に出演したのは、ほとんどがメロドラマです。若い世代のひとりとして、その台詞に違和感をおぼえました。私たちはこんな話し方はしないのではないか? と。もし、私が脚本を書くとしたら……あれこれ考えました。その好奇心はいまも原動力になっています。たとえば、いまの時代の若い人たちの言葉遣いには、とても興味があります」 

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 一方、蔭山はシルヴィアについてこう話した。
  「シルヴィアさんは、アジア映画の偉大な方です。そのような方が、僕のような外国籍(蔭山は台湾に20年在住しているが、国籍は日本)の人間が書いた脚本に目を止めてくれた。そのことが大きな自信となりました。自分が考えていたことは間違いではなかった。そう思うことができました。普通、脚本家は撮影現場に行かないものなのですが、シルヴィアさんにお願いして行かせていただきました。この経験はすごく大きな財産になりました。きっと、シルヴィアさんは来てほしくなかったとは思いますけど(笑)」
   するとシルヴィアは「ええ。私の現場での役者に対する指導を聞いてほしくはなかった。盗み聞きしてたよね?(笑)」とツッコミを入れ、蔭山は「いや、全部ではないんですけどね(笑)」と返し、両者の絆の深さを感じさせた。
 シルヴィアは蔭山が執筆したオリジナル脚本について「男性とは思えない、親子の情感についての描写の赤裸々さに感動しました。みんな、親とは交流したいとは思っています。でも、なかなか面と向かっては言えない。で、結局、そのままになってしまった……ということもあるわけです」と絶賛。その上で、映画の本質について、こう解き明かした。 

「世代間ギャップを描こうと思いました。若いときはどうしても、親の世代とコミュニケーションをとろうとしない。そこから、いろいろな誤解が生まれます。実は、私たちの親の世代も、そのさらに親の世代と、こうしたことはあったんですね。私は、この映画を撮ることで『橋かけ』の役割を果たせたら、と思いました。双方がしっかり口を開いて、自分の言いたいことをはっきり言ってコミュニケーションをはかる。それはとてもいいことですから」
 そして、こうも付け加えた。
「やはり、人間は感情表現をしなければいけない。蔭山さんの物語を読んで私が感動したのは、男性であろうと女性であろうと、人間であればみんな、心の中でどこか、何か言いたいこと、表現したいという気持ちがあるとうこと。あとは、もう、その機会があるかどうか。でも、もし、その機会がなければ、自分の心の中で、そのことについて、しっかり(自分自身と)会話することができれば、それもまたある種の感情表現になるのではないでしょうか」

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 母親の出奔で生き別れになった兄と妹。妹の恋人で父親への想いがくすぶり続けているボクサー。この3人の果たせなかった想いを、映画ならではの表現で昇華しようとする本作の試みは、長いキャリアのあるシルヴィアにとっても特別なことだったようだ。
 「この映画を撮ったときは、いろいろ不思議なことが起きて、私はそれをマジックと呼んでいます。実は、あまり意識的なアプローチはしていません。そこでは、自分が思いもしなかったことが起きました。たとえば、ある妊婦さんに『産まれるときに撮らせてください』とお願いしていた。そうしたら、なんとクランクインのその日に生まれたんです! みんなで駆けつけて撮りました。この映画は私が撮ったというより、神様が撮ったような気がしています。たぶん、神様がその機会を与えてくださったんじゃないかな。すべては自然に起きたことで、それを取り入れた映画なんです。蔭山さんに出逢えたことも含めまして、神様にほんとうに感謝したい」
   意志と好奇心。受容と感謝。生徒との質疑応答と高橋教授の解説で閉められ、アジアを代表する映画人シルヴィア・チャンの懐深い人格がダイレクトに浮き彫りになった、心温まる“授業”であった。

Written by : 相田冬二

*A PEOPLE CINEMA第1回配給作品「台北暮色」、第2回配給作品「慶州(キョンジュ) ヒョンとユニ」の試写会が、過去、多摩美術大学で行われている。


「あなたを、想う。」公式サイト