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── 特に印象的なシーン、期待以上だった場面を教えてください。

そうですね、まさに神の恩寵かと思える場面がありました。台北で撮った妹が屋上にいるファーストシーンがありますよね。後日、同じ場所でもう一度撮ることにしたんですが、最初に撮ったときは晴天だったのに、その日はすごく曇っていたんです。私は天気のことは全く頭になかったので、撮るかどうか迷いました。でも、カメラマンと話してこのまま撮るということにしたんです。ファーストシーンの晴天と、その後にまた出てくる屋上の場面の曇り空とでは随分違いますよね。私が想像もしていなかった曇天の素晴らしいシーンは、神様が与えてくれたものだと考えています。期待以上だったのはこのシーンと海底のシーン、それから兄の想像のシーンです。

── 台風で帰れなくなり、不思議なバーに立ち寄ったユーナンが見る幻想的なシーンですね。

あのシーンは緑島で撮ったのですが、本当に荒天で停電してしまい、どうしようということになって、ロウソクの光で撮るしかない、ということでそれで撮ったんです。私はもともとあの場面では油絵のような雰囲気を求めていて、出来上がったものを見たらまさにそう撮れたと感じました。あのような場面は台北を離れて、島へ行かないと撮れないものでした。私が表現しようと思う部分に光が集まった、という感じです。ですから、わざわざ技巧を施す必要はなく、素直に撮ればいいんだと改めて思いました。

── 緑島の海底での撮影も同じカメラマンによるものですか?

水中撮影はヤオ・ホンイー(姚宏易)さんという有名なカメラマンで、ホウ・シャオシェン監督の弟子でもある方に頼みました。海底での撮影というのは照明が焚けませんから、自然光を利用するしかないわけです。撮影の当日は快晴というわけにはいきませんでしたが、現場に入って、このくらいなら光は足りるだろうということで、私は撮影の仕方について指示することはできませんから、ただ「こんな画が欲しい」と要望だけ言って、あとは彼に任せました。素晴らしいシーンをいっぱい撮ってくれました。彼は私が出演したビー・ガン(畢贛)監督の「地球最後的夜晚」(18)の撮影もしています。

── 撮影現場ではカメラのそばで指示するタイプですか? いつもどのようなスタイルで撮っているのでしょうか。

この映画ではできるだけ撮影の現場にいようとしました。昔はみんなそうでした。現場では、私が俳優に「もう少し近く」と何度も声をかけたんですが、自分だけにそれが聞こえていて、誰にも私の声は聞こえいなかったということがありました(笑)。今の映画監督は結構楽ですよね。現場から離れたところでモニターできるわけですから。ただ、私も時には現場から離れた場所にいることもあります。監督が現場から離れることでいい効果が生まれることもありますから。俳優は監督が近くにいないということで、その空間を自分たちだけのものとして、のびのび演じられるということもあるんです。私自身役者なので、その辺はよくわかります。演出スタイルは特に決まっているわけではなく、まあ、現場主義と言えますね。

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Written by:小田 香


シルヴィア・チャン(張艾嘉)
1953年7月21日生まれ。台湾出身。生後間もなく空軍将校の父が殉職し、母と渡米。台北の小学校を卒業後に香港に移住。高校で台湾に戻り16歳で芸能界入りした。「海辺の一日」(83)「フルムーン・イン・ニューヨーク」(89)をはじめ数々の映画で俳優として活躍し、78年に「舊夢不須記(別名:某年某月某一天)」で監督デビュー。その後も「恋人たちの食卓」(94)「呉清源〜極みの棋譜〜」(06)など、俳優活動と並行して多くの作品を手がける。主な監督作に「最愛」(86)「少女シャオユー」(95)「美少年の恋」(98)「君のいた永遠(とき)」(99)「 20.30.40の恋」(04)など。近年の監督作に「妻の愛、娘の時」(17)、出演作に「夕霧花園」(19)がある。


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