シン・ミナが都会暮らしのキャリアウーマンを演じた感動作。
ストッキングを履く足のアップから始まる。髪はショートカット。スーツが決まって、電話の対応がまた「できる女」全開。大人としての毅然が打ち出される。
物語は、母の急死を知らせる電話から動き出す。父の顔を知らずに育ったミョンウン(シン・ミナ)が、母の遺品整理をしていくうちに、父を捜してみようと思い立ち、父違いの姉ミョンジュ(コン・ヒョジン)を誘って、故郷の済州島を後にするというもの。
魚屋を切り盛りしている姉は妹から見れば雑な人間で、両者は事あるごとに対立。船から車と移動手段を途中で変えてのロードムービー気分の中、シン・ミナの妹キャラは一貫しており、酒にもだらしない姉にずっと不機嫌なまま。船室にカビが生えているだけで怒り出し、虫も大嫌い。そんな潔癖ぶりが意固地なまでの父探索の説得力を画面に打ち出す。
異父姉妹の旅という現在に、父を持たないミョンウンの回想が絡められるスタイル。過去のシーンでシン・ミナは眼鏡をかけた三つ編み姿も披露。映画デビュー作「火山高」では男勝りの女学生を演じた時代を思うと、この勝ち気ながらフツーの女子高生演技は新鮮。キャリアウーマン演技と好対照を成して、シン・ミナ体験としては面白い。
いがみあっていた姉妹が仲直りするという物語の大きな流れに新味はない。しかし、父をめぐる秘密はなかなか衝撃的で、このショックが大きいほどシン・ミナをはじめとする女優陣の見え方も変わる。換言するなら、繊細に組み立てられた謎解き演出であり、2度目の本編鑑賞の方が1度目より面白いという不思議かつ見事な人間ドラマなのであった。
文:賀来タクト
「今、このままがいい」(2008)
監督:プ・ジヨン
出演:コン・ヒョジン/シン・ミナ/チュ・グィジョン/ムン・ジェウォン
[関連記事]
パク・ヘイル × シン・ミナ「慶州(キョンジュ)ヒョンとユニ」の軌跡
パク・ヘイル 第1回「グエムル 漢江の怪物」
パク・ヘイル 第2回「殺人の追憶」
パク・ヘイル 第3回「菊花の香り 世界でいちばん愛されたひと」
パク・ヘイル 第4回「初恋のアルバム 人魚姫のいた島」
パク・ヘイル 第5回「モダンボーイ」
パク・ヘイル 第6回「10億」
パク・ヘイル 第7回「神弓 –KAMIYUMI-」
パク・ヘイル 第8回「天命の城」
シン・ミナ 第1回「火山高」
シン・ミナ 第2回「美しき日々」
シン・ミナ 第3回「甘い生活」
シン・ミナ 第4回「Sad Movie〈サッド・ムービー〉」
シン・ミナ 第5回「今、このままがいい」
シン・ミナ 第6回「10億」
シン・ミナ 第7回「キッチン ~3人のレシピ~」
シン・ミナ 第8回「アラン使徒伝(サトデン)」
A PEOPLE CINEMA第2弾「慶州(キョンジュ)ヒョンとユニ」
レビュー「慶州(キョンジュ)ヒョンとユニ」
「慶州(キョンジュ)ヒョンとユニ」 A PEOPLE TALK LIVE
PEOPLE / イ・ジュンドン
PEOPLE / イ・ジュンドン ②
PEOPLE / チャン・リュル
チョン・ウンスク「慶州(キョンジュ)」映画紀行 第1回「慶州」という街
チョン・ウンスク「慶州(キョンジュ)」映画紀行 第2回「慶州」という映画
チョン・ウンスク「慶州(キョンジュ)」映画紀行 第3回 映画作家チャン・リュルが見た風景
チョン・ウンスク「慶州(キョンジュ)」映画紀行 第4回 慶州にロケした映画たち
「ホン・サンス、イ・チャンドン、そして、チャン・リュル」
TOJI AIDA 「慶州(キョンジュ)ヒョンとユニ」死者は、夢を見るのか?
古家正亨特別寄稿