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1987年に公開された『神様こんにちは』に登場した新羅時代の天文台・瞻星台(チョムソンデ)

チョン・ウンスク「慶州(キョンジュ)」映画紀行
第4回 慶州にロケした映画たち

韓国に関する多くの著書をもつ、紀行作家のチョン・ウンスク。映画「慶州(キョンジュ)ヒョンとユニ」公開に合わせ、彼女が「慶州」という街をさまざまな視点から伝える全4回の連載企画。第4回は、「慶州」でロケが行われた映画についてーー。


慶州という街は、映画の撮影地には選ばれにくいところだと思う。日本でもよく知られている『善徳女王』のような新羅時代のドラマならともかく、どこを撮っても古墳が映り込む街が映画撮影に向くわけがない。

しかし、慶州で撮られた映画がまったくないわけではない。思い出すのは、古くは1987年の『神様こんにちは』(ペ・チャンホ監督)。新しくは2001年の『気まぐれな唇』(ホン・サンス監督)。両作とも主人公が地方を旅するロードムービーで、旅の映画としては抜きん出た良作である。

『神様こんにちは』は、ソウルに住む脳性麻痺の青年(アン・ソンギ)が少年時代に果たせなかった慶州訪問を、旅の途中で出逢った詩人(チョン・ムソン)や臨月の女性(キム・ボヨン)とともに実現しようとする話だ。映画の終盤には古墳群と新羅時代の天文台・瞻星台(チョムソンデ)が登場する。慶州が聖地のように描かれてはいるものの、、慶州の映画とは言えない。しかし、慶州に到達する旅の過程の描写が秀逸である。

たとえば、青年と詩人が臨月の女性と出逢う夜汽車の場面、通りがかりの村の宴会でマッコリをふるまわれる場面、田園風景のなかでヒッチハイクを試みようとする場面などは、旅心を大いに刺激される。『慶州(キョンジュ)ヒョンとユニ』(以下、『慶州』)のヒョン(パク・ヘイル)のような気ままな旅がしたいと思っている人には、うっとりする場面の連続である。

一方、『気まぐれな唇』は、失意の俳優(キム・サンギョン)が春川に住む先輩(キム・ハクソン)を訪ねたあと、釜山に向かう列車で隣り合わせた人妻(チュ・サンミ)のあとを追うように慶州で下車。なかばストーカーのように人妻をつけ回し、ほどなく一夜をともにする話だ。

『慶州』同様、住宅街と接するカジュアルな古墳が登場し、主人公がヒョンのように古墳の頂上に横たわる場面もある。だが、その目的は人妻の住む家を高いところから偵察するためであった。この、かなり気持ち悪いが、どこか憎めない主人公がうろつきまわる伝統家屋群の路地の描写は、観光の街・慶州にも人の暮らしがあるということに気づかせてくれた。

映画公開当時は、本物の積年が感じられる家屋が目立っていたが、ここ数年、韓国全土で大流行しているリノベーション(古びた伝統家屋をおしゃれなカフェやレストランに改装)によって、風景がかなり変わってしまったのが残念だ。

『気まぐれな唇』の主人公と人妻の二度目の情事の舞台は、実在する旅館『慶州荘』だった。『慶州』を観たあと実際に慶州を旅する人は、ヒョンと元カノが食事をした酔い覚ましのスープの店『ロータリー・ヘシャンクッ』を訪れることだろう。『慶州荘』はこの店を出て視線を左に向ければ車道の向こう側にすぐ見つかる。90年代の大ヒットドラマ『砂時計』の撮影もここで行われたので、泊まってみるのも一興だろう。

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2001年に公開された『気まぐれな唇』の主人公と人妻の距離が一気に縮まった場面で使われた焼肉店(慶州駅前の城東市場内)。店名もオーナーも変わっているが、建物はそのままで営業している

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『気まぐれな唇』の主人公と人妻の二度目の情事の舞台『慶州荘』

なお、『慶州』に遺影で登場し、7年前の回想シーンでヒョンとともに『アリソル』で春画を眺めていた先輩を演じたのは、『気まぐれな唇』で主人公の先輩役だったキム・ハクソンである。この2つの先輩キャラには、もっさりしていて影が薄く、妻や彼女に浮気されてしまうという共通点がある。同じ街を舞台にした映画で、どこか似ているこの2人。単なる偶然なのか。なにかしら意図があったのか。チャン・リュル監督と会う機会に恵まれたら、ぜひ聞いてみたい。

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慶州の伝統家屋街はかなり観光地化が進んだが、よく歩けば『気まぐれな唇』で見たような枯れた風景に出合える

文:チョン・ウンスク


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