*

パク・ヘイル × シン・ミナ
「慶州(キョンジュ)ヒョンとユニ」の軌跡 ⑦
シン・ミナ「キッチン ~3人のレシピ~」

シン・ミナがふたりの男の間で揺れる新婚&日傘屋の若奥様を演じる恋愛ドラマ。

幼なじみの夫サンイン(キム・テウ)とじゃれつく朝の風景から始まる。結婚記念日。パーマがかったショートヘアのアン・モレ(シン・ミナ)は朝食の前に夫を食べるような勢い。何の疑問もなく夫と結婚したモレは、子どもがそのまま成人したような人間で、その無邪気な気分をシン・ミナは全身で見せていて、快調。夫が思わず言う。「小悪魔め」。そのとおり。もちろん、この無邪気ぶりはドラマの伏線となっており、夫と行くはずだった陶芸展へひとりで覗いた際、モレは若い美男子ドゥレ(チュ・ジフン)に出会い、物陰で寄り添っているうちに、雰囲気に呑まれて衝動的に深い関係を持ってしまう。
 チュ・ジフンとはテレビドラマ「魔王」に次ぐ顔合わせである。だから、という部分もあるのだろうか。日傘の下のラブ・モンタージュは本作品のひとつの白眉で、相手役チュ・ジフンの甘い表情も手伝って、シン・ミナの色気が伸び伸びと輝いている。そのアブナイ無防備ぶりは、彼女の出演歴を見渡しても屈指のセクシーぶりではないか。
 猪突猛進の無邪気を誇るモナは、その一件を夫にも明け透けに話す。実はドゥレは、夫が料理店を開くために、自宅に住み込みで呼んだフランス仕込みの料理人だった。さすがにドゥレが問題の男だと夫に言えないモナは、複雑で刺激的な一つ屋根の生活を送る。
 始終、目クリクリ、顔ニコニコの「ザ・女の子」。これは、そんなシン・ミナが三角関係の日々を経て、女性としての自立を描く人間ドラマでもある。映画の冒頭とラストシーン、それぞれで見せる正反対の雰囲気には、確かな演技力とその懐の深さが映えた。

文:賀来タクト


「キッチン ~3人のレシピ~」(2009)
監督:ホン・ジヨン
出演:シン・ミナ/チェ・ジフン/キム・テウ/チョン・ヘジン/パン・ウンジン

「慶州(キョンジュ)ヒョンとユニ」公式サイト


[関連記事]
パク・ヘイル × シン・ミナ「慶州(キョンジュ)ヒョンとユニ」の軌跡

パク・ヘイル 第1回「グエムル 漢江の怪物」
パク・ヘイル 第2回「殺人の追憶」
パク・ヘイル 第3回「菊花の香り 世界でいちばん愛されたひと」
パク・ヘイル 第4回「初恋のアルバム 人魚姫のいた島」
パク・ヘイル 第5回「モダンボーイ」
パク・ヘイル 第6回「10億」
パク・ヘイル 第7回「神弓 –KAMIYUMI-」
パク・ヘイル 第8回「天命の城」

シン・ミナ 第1回「火山高」
シン・ミナ 第2回「美しき日々」
シン・ミナ 第3回「甘い生活」
シン・ミナ 第4回「Sad Movie〈サッド・ムービー〉」
シン・ミナ 第5回「今、このままがいい」
シン・ミナ 第6回「10億」
シン・ミナ 第7回「キッチン ~3人のレシピ~」
シン・ミナ 第8回「アラン使徒伝(サトデン)」

A PEOPLE CINEMA第2弾「慶州(キョンジュ)ヒョンとユニ」
レビュー「慶州(キョンジュ)ヒョンとユニ」
「慶州(キョンジュ)ヒョンとユニ」 A PEOPLE TALK LIVE
PEOPLE / イ・ジュンドン
PEOPLE / イ・ジュンドン ②
PEOPLE / チャン・リュル
チョン・ウンスク「慶州(キョンジュ)」映画紀行 第1回「慶州」という街
チョン・ウンスク「慶州(キョンジュ)」映画紀行 第2回「慶州」という映画
チョン・ウンスク「慶州(キョンジュ)」映画紀行 第3回 映画作家チャン・リュルが見た風景
チョン・ウンスク「慶州(キョンジュ)」映画紀行 第4回 慶州にロケした映画たち
「ホン・サンス、イ・チャンドン、そして、チャン・リュル」
TOJI AIDA 「慶州(キョンジュ)ヒョンとユニ」死者は、夢を見るのか?
古家正亨特別寄稿