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———韓国にはイ・チャンドン監督をはじめ、キム・ギドク監督、ホン・サンス監督など世界の映画界が注目している監督が多いですが、映画作りに対するアプローチの点で彼らと比べてみるとチャン・リュル監督はいかがですか?

「キム・ギドク監督やホン・サンス監督はいつの間にか既存の映画制作システムに窮屈さを感じて、完全に自由な方向へ向かったのだと思います。荒っぽさが美学になるという点で二人の監督は類似していると思います。一方、イ・チャンドン監督は重ね塗りをしていくような方法で映画を作っていて、もし自分の作り方が韓国の映画マーケットから受け入れられなくなったとしても、キム・ギドク監督やホン・サンス監督の撮り方に移行することはできません。やり方を変えてまで映画を撮れるタイプではないのです。チャン・リュル監督はちょうどその間にいる気がします。自由な方法を取りながらも荒っぽいところはなく、ディテールがとても生きていますね。チャン・リュル化され、進化したものが作品に映し出されていると感じます。それがチャン監督ならではの独特な部分だと思います」

———それでは、韓国映画界におけるチャン・リュル監督の存在はどのようなものだと考えられますか?

「チャン・リュル監督に限らず、商業映画ではない低予算映画は、映画的に完成度が高くてもその存在感はかなり弱いのが韓国映画界の実情です。上映自体も上映回数が少なく、例えば平日の昼に1回、深夜に1回のみ上映されるといった状況です。このような体制が、観客から独立映画を見る機会を奪い、そうした映画を見なくなるという傾向を作り出していきます。前はホン・サンス監督のファンが10万人ほどはいたとされますが、今は1〜2万人程度だし、キム・ギドク監督もそれほど変わらないと思います。厳しい状況ではありますが、チャン監督の作品は観客が楽しみながら見ることができます。商業映画と比べると最初は馴染まないと感じるかもしれませんが、1回、2回と見るうちにどんどん惹かれていくといった映画です。「慶州」も質問を投げては観客の世界を見る目を新しくさせます。それを強く意図的に描いているわけではなく、なんとなく漂わせている、そんなところが観客に楽しんでいただけると思います」

Written by:小田 香


<プロフィール>
イ・ジュンドン
1957年、大邱市に6人兄弟の4男に生まれる。20代は演劇に熱中し、演出を手がけていた。'93年、兄イ・チャンドンが脚本と助監督を務めたパク・グァンス監督の「あの島へ行きたい」で制作管理を担当。2000年、兄に反対されたが、経営していた会社をたたんで映画界に入り、2002年の「オアシス」でプロデューサーを務めるともに端役として出演もした。イ・チャンドン監督作のほか「初恋のアルバム〜人魚姫のいた島〜」(2004)「情事 セカンド・ラブ」(2007)「冬の小鳥」(2009)「The Cat ザ・キャット」(2011)などを手がけている。「ナウフィルム」「パインハウスフィルム」という二つの映画制作会社の代表でもある。最新プロデュース作はソル・ギョング、チョン・ドヨン主演作「誕生日」。


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